自作PCのパーツ選定基準《CPUクーラー編》
こちらのページはPCパーツを選定する時の基準《CPUクーラー編》をまとめた記事だ。きっかけとなる記事はこちら《自作PCのパーツ選定基準について考える事》になるため、もしまだ見ていなければよろしければ見てほしい。
CPUクーラー
CPUクーラーの基本として最も目にするのは、左の画像のようなCPUメーカー製CPUクーラーだ。
CPUメーカー製CPUクーラーをリテールクーラーと呼び、Intel・AMD共にCPUに付属する。ただしCPUクーラーとしての性能はおまけレベルで、社外のCPUクーラーを使った方が何かと融通が利く。
また昨今のCPU事情として、ハイエンド(高性能)なCPUにはこのリテールクーラーが付属しないようになってきた。ハイエンドCPUにはリテールクーラーの冷却性能では足りなくなってきたからだ。
さて、このCPUクーラーだが冷却方式によってその呼び名が変わる。
熱源に風を当てることによって冷やすクーラーを空冷クーラーと呼び、熱源を液体で移動させてからそれを風で冷やすクーラーを水冷クーラーと呼ぶ。
空冷クーラーの中でもさらに、冒頭画像のリテールクーラーや省スペース向けに多いのが、トップフロー型と呼ばれる空冷クーラーだ。
また、低価格なCPUクーラーからハイエンドCPU用の高価格帯のCPUクーラーまで幅広く用いられるのが、サイドフローと呼ばれる空冷クーラーだ。
トップフローとサイドフローの大きな違いは風の流し方にあり、トップフローは上面から風を吹き付ける形で冷却を行う。サイドフロー型は側面から風を流すことによって冷却を行う。
トップフロー型はCPUだけでなく、その仕組みからCPU周辺を冷やすことが出来る。サイドフロー型はPC内のエアフロ―を阻害せずスムーズな気流で排熱を行う事が出来る。
どちらを使うにしろ空冷クーラーはPCケース内の占有率が高めなので、使用するPCケースやパーツを考慮しながらこれらの空冷クーラーを選んでいく必要がある。
水冷クーラーはと言うと、下記の画像の様に本格水冷と簡易水冷の方法がある。
【本格水冷】
【簡易水冷】
本格水冷はロマンの塊で、クーラント(冷却材)を循環させるためのポンプや移動経路であるパイプの配管、CPU等を冷やすための水枕等といった別途パーツが必要で、配管をミスると水漏れでパーツを壊してしまう危険性があるという具合に、非常に時間と技術とお金が掛かる。
しっかりと構築できれば空冷以上に冷やすことができ、尚且つ上の様に非常に見栄えの良い見た目に出来るが、こまめなメンテナンスが必要になる。
水冷のメリットを最大限活かす形で、誰でも設置出来るように且つメンテナンスフリーで設置できるようになったのが簡易水冷になる。
簡易水冷は分解不可なものがほとんどでクーラントの交換は出来ないが、その蒸発が無ければ空冷以上に冷却性能を発揮できる。
ただ下手な簡易水冷を使うと、空冷よりも冷えない場合があるので注意したい。
簡易水冷にはラジエーター(冷やすためのブロック)のサイズが決まっており、おおむね120mm/240mm/280mm/360mmとなっている。単純にこのラジエーターのサイズが大きい方がより冷えるので、余裕があれば大きい方が良いがPCケースを選ぶので要注意。
このラジエーターの配置さえどうにかなればPCケース内のレイアウトを比較的自由に取ることができる為、空冷CPUクーラーではPCケースやパーツに制限が出てしまう所を簡易水冷であればどうにでもできるのが強みでもある。
CPUクーラーを選ぶときの注意点
対応ソケット
CPUを取り付けるマザーボードに対応ソケットがある様に、CPUクーラーもマザーボードに取り付ける為それに合わせて対応しているソケットを確認する必要がある。
対応ソケット?という人はこちらの記事を読んで欲しいが、CPUクーラーは何でも取り付けられるわけではない。
CPUクーラーの仕様表には必ず「対応ソケット」ということで、IntelやAMDの対応しているソケット形状の記載があるので使用したいCPUクーラーが見つかったら必ず確認しよう。
大きさ
空冷クーラーの説明で少し触れたが、空冷クーラーはPCケース内の占有率が高めだ。
PCケース内の高さとCPUクーラーの高さが噛み合わない、といったことが起きないようにしっかりと確認してほしい。
またよくあるのが、CPUクーラーのファンの部分とメモリが干渉してしまう場合だ。最近のメモリはヒートシンクやLEDが搭載されており背の高いものが多い。CPUクーラーにメモリ分の逃げがある場合もあるがそれでも干渉してしまう事もあるため、メモリの高さも気にしてほしい。
対応TDP
TDPという言葉を覚えているだろうか。以前投稿した電源ユニット編で軽く解説しているが、ここでは「これくらい発熱するから、これに間に合うように冷却してね」という意味で理解してほしい。
CPUには必ずTDPの記載がある。例えばIntel Core i9-10900KのTDPは125Wである。一方AMDのRyzen 9 5900Xは105Wである。
前述したTDPの意味通りに読み取っていくとIntelは「125W分発熱します」、AMDは「105W分発熱します」となる。CPUクーラーがこの発熱量に対応できなければ、意味が無いのである。
この対応TDPはCPUクーラーの仕様表に記載が無いことも多いので難しい部分ではあるが、もし記載があればどの程度まで対応できるか確認しておこう。
もし記載が無い場合でも対応ソケットであれば、CPUをオーバークロック(OC)をしない「定格運用」であれば問題なく動作するだろう。
OCとはCPUの動作をより高速にして性能上限を上げようとするものであるが、結果的に(TDP)発熱量も増えてしまう。人間に例えれば、普段より多くの仕事量をさせて効率を上げようとするものだ。人間ならば汗をかいて体温を下げられるが、CPUはそうはいかない。CPUクーラーがどれだけ冷やせるかがポイントとなる為、比較的上級者向けの技術である。
設置方法のあれこれ
説明書通りに付けてください!という事なのだが、よく話題に挙がるので少し記載しておく。
Intel製リテールクーラーでよくみられるプッシュピン式
プッシュピン式はリテールクーラーや社外でも少しみられる設置方式で、設置自体は至極簡単でピンを指定場所に挿すだけだ。よくある勘違いとして「矢印方向にピンを回して取り付け」というものだが、正しくは「取り外しの際に矢印方向に回す」が正解だ。
AMD製リテールクーラーでよくみられるリテンション式
リテンション式はマザーボードのブラケットにCPUクーラーのフックを引っかけて、その後レバーを引き固定する方式だ。こちらも設置自体は至極簡単だが、このレバーが非常に固く壊してしまわないか不安になるレベルだ。よくある勘違いは、あまりにも固すぎて「初期不良」だとか「これ以上引けないから大丈夫と中途半端な所で止めてしまう」ことだ。安心してほしい。しっかりとフックが引っかかっていれば正しく設置できているので、恐れずに力いっぱい思いっきり引いて設置しよう。
ハイエンド空冷クーラーや水冷クーラーでよくみられるバックプレート式
マザーボードをバックプレートとフレームで挟み込んでCPUクーラーを設置する方式だ。よくある勘違い、というよりは間違いになるがマザーボードの背面にバックプレートを設置する都合上、PCケースに先にマザーボードを設置してしまうとPCケースの仕様によってはバックプレートが設置できなくなってしまう。その為、この方式の場合は必ず先にバックプレートとフレームを付けるようにしよう。また、CPUクーラーの固定は金属製のネジになるがあまりにも強く締め付け過ぎて、マザーボードを破損させてしまう事にならないように、ネジ固定のトルクに注意する事。
CPUとCPUクーラーの間に塗るグリス
CPUグリスの選定は正直なんでも良いのでここでは飛ばすが、グリスの塗り方は意識してほしい。グリスによってCPUとクーラーの密着性を上げ放熱性を高める。密着性を上げるためのグリスなので、いかにグリスを薄く広く伸ばせるかが重要である。また、このグリスに空気が入ると放熱性が下がるので空気が入らないようにしたい。
よくある議論で、グリスの塗り方は「一点(米粒)盛り」が良いだとか「ヘラで伸ばす方が良い」とかいろいろあるが、使うグリスによって伸び方も変わる為、塗り方は各々の判断に任せる。参考にPCショップのドスパラが動画で塗り方の検証をしている。見てみると面白いかもしれない。
まとめ
- CPUクーラーには空冷と水冷がある
- 空冷にはトップフローとサイドフロー
- 水冷には本格水冷と簡易水冷
- PCケースやパーツに干渉しないようにサイズ感を考えて選ぶ
- 対応ソケット・対応TDPがどうなっているか把握しておく
コレを買っとけのコーナー
今回は少し形式を変えてお送りするこのコーナー。その数と内容が多くなってしまった為にこの形式にしたが、内容を見てそれぞれ自分に合うものを選んでほしい。
ちなみに以下に紹介するクーラーは全て最新のソケットに対応しているが、旧ソケットに関しては確認していないのでそちら目的の人は各自で確認してほしい。
SCYTHE 虎徹 MarkII SCKTT-2000(リンク)4,000円前後 サイドフロー式
サイドフローのザ・定番。迷ったらコレを買っておけというレベルで、低価格・そこそこの性能。
なるべく低価格で組みたい場合、PCケースのサイズ的に許されるのであればコレでOK。OCは非推奨。
SCYTHE 大手裏剣 参 SCBSK-3000(リンク)4,500円前後 トップフロー式
トップフローのザ・定番。PCケースに応じてサイズが一回り小さい「手裏剣 弐 SCSK-2000(リンク)3,700円前後」も選択肢として出てくる。低価格・そこそこの性能。
難点はわざわざこちらを選ばなくても↑の虎徹MarkⅡで良いこと。PCケースに応じて使い分けるためのコレ。
noctua NH-D15(リンク)11,000円前後 サイドフロー式
冷却性能が空冷のCPUクーラーではトップクラスの性能。この冷却性能で静穏性も高く、総合的にみると空冷のCPUクーラー界の王者と言っても過言ではない。下手な水冷クーラーより冷える。
Noctuaのファンは高品質で有名である。それがこのCPUクーラーに付属しており、静穏性と冷却性の両立が出来る要因となっている。
対応TDPの記載はないが対応CPU表(リンク)があり、最新のCPUをOCしても問題ない旨の記載あり。
難点はサイズが大きいのでPCケースを選ぶことと、その価格の高さ。
PCケースと予算が許すのであればコレを搭載すれば間違いない。
DEEPCOOL GAMER STORM ASSASSIN III DP-GS-MCH7-ASN-3(リンク) 10,000円前後 サイドフロー式
冷却性能が空冷クーラーでは最強。これ以上の空冷クーラーは存在しない。下手な水冷クーラーより冷える。しかも価格は↑のNH-D15より若干安い。
対応TDPは脅威の280Wで、極端なOCでなければ最新CPUをOCしても問題なく冷やせるだろう。
難点は静穏性が低いこと。高回転時は煩めなので音に敏感な人は注意。また、NH-D15と同じくサイズが大きい為搭載するPCケースを選ぶ。
その他度外視で、冷却性を最も重要視するのであればコレ一択。
DEEPCOOL GAMMAXX L240 V2 DP-H12RF-GL240V2(リンク) 8,000円前後 簡易水冷
価格のわりにそれなりに冷やせるコスパ抜群の簡易水冷CPUクーラー。簡易水冷を試してみたい初心者にオススメ。
対応TDPはIntelで165W、AMDで250Wとなっている。
光らせることも出来る為、安価にケース内を華やかにしたい場合もオススメ。
これは240mmのラジエーターサイズで、同シリーズに120mmと360mm版がある。必要な冷却性能とPCケースに応じて選んでほしい。
Corsair iCUE H115i RGB PRO XT CW-9060044-WW(リンク) 16,000円前後 簡易水冷
簡易水冷のザ・定番。iCUEというソフトウェアを用いてPC上からクーラーのイルミネーションやファン挙動を変更することができる。
これは280mmのラジエーターサイズで、同シリーズに120mm/240mm/360mmがある。
メーカー保証が軒並み2年程度のものが多い中、販売代理店のリンクス(リンク)を通して5年間の長期保証がある為安心して使う事が出来る。また、保証が長い=製品に自信があるという事で捉えても良いだろう。
ASUS ROG RYUJIN 240(リンク) 26,000円前後 簡易水冷
高品質なNoctua製ファンを2基搭載した240mmの簡易水冷。同シリーズに360mmが存在する。
このクーラーの最大の特徴はCPUの水枕(ポンプハウジング内)に小型のファンを搭載しており、CPUだけでなくその周辺を冷やすことができる。その為にラジエーターが同サイズ帯では価格が高めの部類。